本がめぐる輪

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140字じゃ書ききれないので、今日はツイッターではなく、ブログにする。

梱包・発送の多い日だった。
週明けの月曜は、たいてい、週の中でいちばん発送が多い。
ましてや、この経済状況下にあっては、本の単価が低いため薄利多売どころか薄利薄売というのか。
とてもたくさん梱包して多くの方にお送りしたような錯覚にとらわれても、
売り上げはさほどではないという・・・。
古書店にとってはなかなかハードな状況だと思う。

古書市場であれこれ古書を見て、帰宅してから梱包・発送となると、目が疲れるし、
集中力が落ちる。発送のミスがあってはいけないのでそこそこ神経もつかう。

5匹いる飼い猫のうち1匹、何度も激しく胃液を吐いていたので、とても気になる。
ずっとついているわけにもいかず、倉庫でひとり梱包作業に打ち込む。

目からじわーっと涙が湧いて出てくる。
あれこれ悲しいのか、あるいは単なる眼精疲労のためか、よく分からない。

で、今夜は、8時半にJRの最寄り駅まで、
とある方からご注文いただいた本を届けにいく仕事も加わった。

昨夜遅く、F書店、あの絵雑誌の編集部の方から
ご注文をいただいたのだった。
とても急いでいる様子で、火曜に使いたい、できれば月曜中に入手できれば、とのこと。

企画会議にでもお使いになるのかと思って、まあ、
それほど御入り用なのであれば、お力になりたいじゃないですか。
自分が編集者だったら企画会議にどうしても必要なものなら何としても用意したくなるだろう。
しかも、私が好きなあの絵雑誌の編集部だし、
実は、バックナンバーはずいぶん当店でも扱わせてもらっていることだし、むげにはできません。
勿論、誰にも彼にでも急ぎの要望をいただいても応じられるはずもなく、
たまたま、今日は条件が重なって対応できたわけだが。

眼精疲労のピークだが、目薬をさして、なんとか運転して駅へ駆けつける。

藤田朋子(知らないよ、っていわれそうだ。あ、藤田さん、すみません)を若く可愛らしくしたような
キュートな女性編集者が待っていた。

大変恐縮していただき、かえってこちらが恐縮してしまうほどだ。

「本があったほうがお話しやすいと思うので・・・。本当に嬉しいです」と本をお手にとって

「実は、×××××子さんの思い出の本なんです。『××と××』(皆様ご存じの名作絵本)の××さん。
××さんがお子さんだったころ、お友達の家で誕生会があって、
そこのお母さんと皆で本屋さんに行って
『好きな本を選んでいいわよ』と言われて選ばれたそうです。
絵もなんですが、お話がちょっと変わっていて、とても心に残ったそうです。
その本が手に入るなんて思わなくて諦めてかけていたら、
知り合いがネットに出てるよって教えてくれて・・・」

××さんに思い出の本をお手にとってもらうことができるなんて・・・。自分もほんの一隅にでも関わってお役に立てるなんて、まるで夢のようだった。
××さんが本をお手にとって、思い出の本との再会をどのように味わうのか、想像しただけで目から水がこぼれてきそうで困った。
思い出の本が、その人にとってどれほど大事なものかと、
さまざまなお客様から教えていただいてきた。実際、そうなのだとつくづく思う。

たまたま当方の目録掲載品が残っていて、
日本の古本屋サイト上に掲載してあったものが、
今夜、女性編集者のもとへと行き着いたのだった。
自分はいつどこでその本を入手したのか、よく覚えていないが、
いにしえの人の手から古書店の手を通じて、
古書市場に出てきたものを買ったのだろうと思う。
めぐりめぐって本がまわっていく輪の中に加わることができ、
仲介することができた歓びを与えていただいた。

実をいうと、昭和26年刊のその古書は、黒田辰男・編・ブブノワ絵、
装丁がユニークで、海ねことしても手放しがたい本であった。
が、その本がどなたかのお役に立つというのがどれほど嬉しいことか。

しかも、若い女性編集者にとって、決して安くない値段だと思うのに、
会社のお金でなく、自費で買ってくれた。××さんのもとに何とか本を持参したいという熱意、××さんに対する思いやり、編集者としての矜持など、さまざまなものが伝わってきた。
「ありがとうございます」という言葉が心底からしみ出した。

帰り、運転しながら、目から水が溢れてくるのが、
ドライアイのためなのか、嬉し涙なのか、自分でもよく分からなかった。

地を這うように働いているけれど、この仕事をしていてよかったと思う瞬間がある。

また、どなたかの思い出の本をご用意することができるよう、
良い本を蒐集してご紹介していけたら。
そんな気持ちを、くっきり思い出したのは久々のような気がした。
非日常が日常になって埋没してしまうと、忘却の彼方に追いやってしまうことの多さ。

たいていの場合、どなたかの思い出に残る本というのは、
きちんとつくられた本であることが多い。
だれかのいろいろな思いが厚く詰まった本は、違うだれかの心に強い印象をもたらすものなのだろう。
しっかりよくつくられた本ーー当店の場合は、主に絵本・児童書なわけだが、
戦後じきの驚くほどよくつくられた本をもっともっと集書したい。
集書しながらいろいろ知ることができ、しかも、どなたかの思い出の本をご用意することができるかもしれない。
良い仕事です。


たまに喜びがあるからこそ、日常的な自転車操業の日々も、
ヘトヘトな日々も、シワシワかさかさになった手も、
古書のヨゴレ落としも、重くてしんどい労働も、
さまざまなストレスも乗り越えられる。

ちなみに、女性編集者は明日、××さんにお会いして、
夏ごろ発売になる絵雑誌の付録(小冊子)について相談をするのだという。
少なくとも夏までは無事、生きて、冊子を拝見できる日を迎えられますように。
希望を与えられる、希望を与える、どれもこれも「人」なんですね。
お客様のことをあまり書いてはいけないのだと思うが、
恐縮ながら書かせていただきました。
Nさん、ありがとうございました。
明日、良いお話をお伺いすることができますよう、お祈りいたします。

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