茂田井武展へゆく

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古書店に定年はない、と書いた(8月7日分)。
が、つとまるのかどうか。漠とした不安にとらわれるときがある。

たとえば、今日。

注文本を探すことができない。
あるはずの本がどうしても・・・どうしても探せない。一体どこにいってしまったのか。
倉庫で探しているうち頭がぼんやりしてきて、
ぼーっとしているのが暑さのせいなのか、痴呆ぎみのせいなのかわからなくなる。
ここのところ、何度目だろうか。
本が見つからない。古書店としてどうなんだろうか。

そして、ここのところ、眠くて、だるくてならない。
「6日間限定ショップ」を終えて、目録1号の梱包・発送の日々だった。
ようやく。ああ、ようやく落ち着いてきたかと安堵したのだが、
とたんに、睡魔に取り憑かれている。
何かをする気力が起きない。
一体どうなっているのか、自分。
世間様がお盆休み、古書市場が夏休み、
こんなときこそ、じっくり腰を据えて、いろいろやれるチャンスだというのに。
睡魔とばかり仲良しだ。加えるなら、私の場合、睡魔と酒、だ。

働きすぎかと、思い切って気分転換に努めることにする。
一昨日は仕事のあと、近くの温泉で小一時間、湯を浴びてみた。
昨日は目録のデータ入力に飽きて、
電車の所用時間を調べ、
神奈川近代文学館で開催中の「茂田井武展 子どもたちへの贈りもの」へ。
「港が見える丘公園」の名のとおり、遠くに海を望む絶景の地。
緑濃い公園であり、館内にいても蝉時雨が漏れ聞こえてくる。

龍生書林さんも落穂舎さんも
茂田井装丁本を貸し出してほしいと頼まれて協力したと聞いていた。
貸し出すかわりに招待券をもらったとのことで、龍生さんからチケットをもらっていた。
(別ルートで黒岩比佐子さんからいただいたチケットもある。黒岩さん、ありがとうございました。
ご希望の方、お分けできますよ)

落穂舎さんの本も、龍生さんの本も、戦前のものでありながら、とても状態がよかった。
「君が茂田井茂田井というから、こっちまで気になってきちゃって」
と笑って言われたが、これほど状態のよい稀少本を抱え持っている先輩たち。
うーん、あと何年かかったらちょっとでも近くに追いついていけるのだろうか。
無理じゃないか、と思えてくる。

ちひろ美術館のときと展示にさほど差がないのではないかという先入観は
みごとに破られた。
展示数が多い。こんなものが! と驚くようなものが次から次へと現われ、見応え十分。
初めて見る画帳、初めて見る生原稿、初めて見る生画稿、初めて見る本に雑誌・・・、
茂田井好きには、眼福というしかない一時だった。
構成担当者が違うと、これほど受ける印象が違うものなのか。
「文学館」というだけあって、茂田井武の生涯をくっきり浮かび上がらせた構成になっている。
私の好みに近かった。

海ねこ目録 掲載品で、とある方に送付したのと同じ「こどもペン」創刊号があった。
「ろばが二度ないた話」状態があまり良くないながら最近市場で入手したばかりなので、
表紙原画、候補となったものの未採用に終わった表紙画稿など、興味深く拝見。
扉の原画もあって、茂田井の指定によれば「ウスイ青が一色 コイ青が一色 併わせて二色」となっていたが、
あれ、仕上がりは、朱色っぽい色ではなかったかな。記憶がおぼろげだが。

デスマスクとして描かれた死に顔(三芳悌吉によるものだったか)にドキリとさせられる。
武井武雄、安泰の筆による弔辞、たいへん心がこもっている。
茂田井の死を悔しがる武井武雄、茂田井が好きでならなかった安泰。

閉館まで1時間半しかなかったので、とりあえず一通り見て、
閉館ぎりぎり、館内にほとんど人がいなくなったところで、
気になるところだけ重点的にじーっと見てまわる。

「関氏 北国の犬より 楽書帳」に目が釘付けになる。
関英雄「北国の犬」出版記念会の際、
イラストは別の人が描いているのだが、
茂田井が収録作品を読んだ印象を
茂田井なりのイメージで描いて関に贈呈したもの。
添えられていた説明文が良かったのだが、
自分の殴り書きメモが判読不能。
確か、幼少時代への思いを個人的レベルでなく、
表現者の立場として
普遍的なものとしてとらえようと目指した関に共感して、
思わず描きたくなった、みたいなことが書かれていた(違うかもしれないが)。

さまざまなスケッチやら下書きやら、日記やら、
そして、初めて見る装丁本たち。
閉館までじっと目に焼き付ける。

これほどいろいろ保存されているのは、茂田井の家族、
そして、周囲の人々、愛好者がきちんと所蔵していたためと思われた。
世田谷文学館での堀内誠一展でも思ったことだが、感心させられる。

惜しむらくは、龍生さんから聞いていたが、目録がないこと。噂では予算の関係上、らしい。
受付で切符切りの女性から配布されるパンフレットは必ず受け取ること。
私は受付で目にとまり、
「もらっていいんですか」と確認したところ「どうぞ」と渡されたが、
あやうく、もらい損ねるところだった。
そのぐらい薄手で小さいものではあるが、目録がわりに配布されたようだ。
惜しむらくのもう1点。展示を見終わったあと、茂田井に関する古書を読みたくなるが、
売り場で買えるのは新刊ばかり。すでに持っているもの、触手を伸びさせないものが大半。
残念ながら買うものがない。
「神奈川近代文学館」官報100円を購入。

チラシをチェックして、内澤旬子さん表紙の"KANAGAWA ARTS PRESS"をいただく。二部いただいたので、欲しい方がいらしたらお分けできます。内澤さん、なんという美しい写真だろうか。
汚れた格好で出かけていった自分が恥ずかしくなった。

ここまで書いたところでfaxが入ってきた。
北部支部・阿南古堂書店 店主が37歳で逝去、との知らせ。
阿南古堂さんて、阿佐ヶ谷から移転して、買い入れで一旗あげた噂もあった人?
自分は話したこともないが、ショックを受けている人がどれほど多いことだろうか。
若すぎる死という以外、言葉を見つけられない。

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