堀内誠一 旅と絵本とデザインと 展(長文)

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目録にご応募いただきましたのに、お待ちいただいている方、誠に恐縮です。

「締切が1か月先なんて長すぎる。欲しいときにすぐ見たいんだよ。1000円の本でも1万円の本でも同じ」と、師匠のひとりであるところの某書房より指摘される。器がないのに、イベントと目録と両方って、無理だった? 次回からの課題にしないと・・・。独りごちてしまう情けなさ。

土曜。
目録第1号発行後、初の週末。
目録の応募が殺到するかも、と身構えるも、蓋をあけてみたらアレ・・・・・・?
それでもお世話になっている友人より注文をいただき、嬉しいやら恐縮するやら。

そのほかは、21日よりのイベント準備のため、
やれるだけ値札はり。たまたま買取させていただいたままになっていたドイツ絵本たち。印刷が美しい。
同じ作家・同じ絵本のはずでも、印刷が違うと、まるで別の本のようだ。
素晴らしい素晴らしいと、ひとり呻きながら値札はり。はたから見たら不気味か?

日曜。
遅く起きて、まずは、いつものようにパソコンを開く。
うがいをする。コーヒーをいれる。
メールを見る。はてなアンテナに登録しているブログをチェック。

どわー。

大変だ大変だ。のんびりしていられない。
散髪に行った家族の帰りを待ちつつ、大変だ大変だと心の中でつぶやく、落ち着く暇もない。
理由はただ一つ。
沼辺信一さんのブログを読んだから。一刻も早く世田谷文学館に駆けつけねば。
ああもう遅いかも。金曜に知っていれば、と悔やむ。時既に遅し、か。

「自費出版図書館」で以前、借りて読んだ印象が忘れられない1冊。
あの本が販売されているのだという。
あとで知ったのだが「家に置いておいてもね」と今回の展示のため、ご家族が出されたものなんだとか。
綴られているのは、
87年、堀内誠一さんがお亡くなりになったのち、
友人・知人らがほとばしるような思いをぶつけた文章。奥様、ご家族がしっかりまとめたもの。
堀内さんの足跡・人となりを浮き彫りにする1冊だ。
自分はこれまで入手できそうな機会が何度かないわけでなかったのに、ことごとくダメだった。
半ば諦めかけていた「堀内さん」が販売されていたという。これは何がなんでも行かなければ。
目の前に仕事が山積していようとも、駆けつけねば。

家族に最寄り駅・調布まで車で送ってもらう。
芦花公園駅から南下。おそらく、そのときばかりは、だれよりも早足の私。

「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」展(-9月6日。世田谷文学館)。

汗だくで受付に駆け込んで、まずは目当てだった本があるかどうか尋ねる。
「たくさんありますから大丈夫ですよー」と受付嬢さん。

はぁー、安堵。え、でも、本当に大丈夫なの? 一抹の不安もありつつ、せっかく来たのだから
展示に集中したい。気持を切り替える。
汗をぬぐって、2階へ。

堀内誠一、7-8歳のころのスケッチ。
すでに、好奇心いっぱい、海外へ、異文化へ、外へ外へと目が向いている様子が伝わってくる。
あとで聞いたところによれば、お母様の手になるスクラップらしい。
ガラスケースの中の展示は、2-3見開き、見られるように工夫されていた。
が、できれば、もっと違う見開きも見たくなる。
左から、下から、思わず覗き込んでしまう。

「モボ・モガの時代―東京1920年代」(83年)に綴られていた文章。そして、関連の展示。
子どものころの暮らし、住んでいた場所、父親の職場の印象
・・・・、どんな光景を目にして、どんな刺激を受けながら、堀内少年が育ってきたのか。
想像をかきたてられる。自分も1930年代にトリップしてゆく。

なぜ、フランスが好きなのか、懐かしい印象を持ったのかというと、
ルネ・クレール「巴里の屋根の下」の画像が焼き付いていたらしい。

石元泰博の写真が好きで、「ロッコール」に掲載させてほしいと頼んだらしい。
石元作品について
「日本の写真家の作品には見られない、孤高な
なんか突き放したような形の愛情で扱われた作品」と堀内。

ロッコールの見開き、パリの少年少女のなにげない写真が、目の前に連なっている。
何が堀内を引きつけたのか。この人の選択眼から学ばせていただくことの多さ。私たちは、そうやって育ってきたのだ。

「母の友」は「古本 海ねこ」自家目録第1号でなるべく詳細に書誌を刻んだつもりだったが、
ああ、そうだったのかー、恥ずかしながら打ち明けるが、360号からの「子どものための展らん会」は知らなかった。
知らないことばかり多かりき、だ。連載10回めは「ねこ」。(追記・堀内誠一の画期的な絵本論「ぼくの絵本美術館」に収録されています)

夏のこの時期、子どもとお母さん方を引きつけるならコレしかないと思われるのだが、
あえて、絵本の原画コーナーが前面には出ていないところに注目だ。

「実は、絵本作家の道こそ、運命が決めた本命なのに
ぼくはどこかしら遊びの部分として残していきたい気もするのです。
思い上がったような考えですが・・・」

いかに絵本を大事に思っていたのか、よく伝わってくる文章。

今回、展示方法は、万人に分かりやすく、
あの手この手、バリエーションに富んでいて飽きさせない。

絵本原画の脇にいくつも虫メガネが置かれていた。
ひとり遊びしていた少年に
「大きく見えて面白いねえ」といったら、
私のマネをして、早速、絵本原画をのぞきにいっていた。

実際、虫メガネでぜひのぞいてみてください。堀内さんの描き込んだ地図には驚かされますが、絵本の原画もね。よくぞここまで細かく、描き込んだものだと驚かされます、本当。

その奥、ちょっと奥まった場所に絵本コーナーがある。
隠れ家みたいなヒミツめいた場所で、外光が入る。
特別いい場所に、なにげなくこっそり、設けられているのがいいなあと思った。

1932年-2007年、 Bibliotheque de Travail
毎号、テーマ別にパリで出版されていた子ども向け雑誌。
絵の参考に愛読していたらしい。
いつかは本格的な写真絵本を日本でも、と思っていたようだ。

沼辺信一さんもブログで書いていらした1974年12月12日消印、瀬田貞二さんから堀内誠一さんあての書簡。

「なお、私がいつか伺いを立てた絵本については、相場がーで40万ということで頭になく、
それでは非常識であるから、ご関心から切り捨ててください。
今月の母の友(1月号)で、山口(智子さん)訳のフランス民話・・・・(中略)
「結婚したがらないリスのゲルランゲ」と同じtouchでのびのびしていますから、
的確に処理されたdrawingがあり、
・・・(中略)いろいろな影響から脱したものを見つけたような感じをもつのですが・・・(中略)
私の方、4年間つづけた落穂ひろいが今日ーにでも
その ーは独酌で独祝するつもりです」

4年間コツコツ重ねてきた労作がようやく完結しようとする瞬間。
瀬田貞二さんの心情を想像して、しんとした気持ちにさせられる。
瀬田さんがこんなふうに打ち明けられる相手は、堀内誠一以外にいたのかいなかったのか。

堀内さん好みの洋書絵本たちも書棚に収められている。
すべてはガラスケースの中だが、きちんと収められている。そこにある。

自家目録第1号、お粗末ながら、とりあえず何年かかけて集書した本を
半年ほどかけて入力した自分。
次は何をしたらいいのかと府抜けていたのだが、
展示を見ていくたび、ふっとヒントをいただくような気がしたのだった。
力をいただく。勇気をいただく。ん、これかと思う。思っても、ふぅっと、じき逃げていってしまう。
それでも、おもしろがってやっていけば何かが見つかるかもと、
展示を見ていくうち、薄ーく光が射してくるような。
古書店を続けていくうち、やっていくべきことを見つけられるかも、と勇気づけられたのでした。

展示を見たあと、
自分、堀内誠一さんのとても近くにいらした方々とお話しすることができました。
偶然、本当にひょんなことから。

声をかけていいのかどうかわからず、一言を発するまでにとても勇気がいりました。
火星の庭・前野久美子さんだったら笑顔でさらっと声をかけられるだろうなと思いました。
震えました。
でも、かけさせていただきました。

「古本屋です」というだけでは、まるで何かを狙っているアザトイ古書店と思われてしまいそうで
まるで言い訳のようですが
「絵本・児童書を扱っている古本屋です。
あのあのあの・・・自家目録を作ったのでお送りさせていただいてもいいでしょうか」
ああ、目録がこんなところで役に立った。作っておいて、よかったー。

堀内誠一さんの遺してきたものの大きさにメマイがしていました。
ずっとずっとそうでした。知れば知るほどそう感じました。
だけれど、すぐそばにいらした人たちはとても温かく、寛大で。そして、展示をもっともっと面白いものにできないか、ひとりでも多くの人に見てもらいたい、同じ人に何度でも足を運んでもらえるよう何か良いアイディアはないだろうか、と意欲的。大変前向きでした。
おそらく、堀内さんも同じようだったのだろうと思いました。

堀内さんは本当に大勢から支持を受け、愛されていた方なのだろうと改めて感じました。
溢れるような才能を独占するというより、
大勢で分け合って、ともに手を取り合い、相乗効果で素晴らしいものを作り出していった。
本日、会場にはこの日のため駆けつけたと思われる堀内さん世代の方も多かったです。
よくよくお聞きしたら、まさに「堀内さん」に寄稿しているような方だったりして、
ぶったまげました。歴史の一幕、ほんの一隅、末席に参加させていただいたかのような。大袈裟だと笑う人は笑ってください、ちょっと泣きそうになりました。
あなたが世田谷文学館にいらしたら、お隣にいる方は、
堀内誠一さんと深く関わりを持った人かもしれません。

9月まで続く展示ですが、何度か私は足を運びたいと心底思っています。
8月8日(土曜)14時からはスズキコージさん×土井章史さん(トムズボックス)の対談があります。
行きたいな。
充実の展示内容ですので、何度見ても、そのたびに違った発見があるはず。

堀内さん装丁の古書も販売されています。それまた、大変面白い試み、ですよね。
こういうのってありなんだと、目から鱗でした。

帰宅したら、ありがとうございます。
自家目録にまとめてのご注文をいただき、忙しくなって嬉しい悲鳴です。しかも、目録掲載商品をイベント会場でご覧になりたいとご希望いただき、おっし、イベントをやる意義ありじゃないですか。ありがとうございますー。
イベントの値札はりが今日出来ずに焦りはありますが、明日からまた頑張ろう。

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海ねこさま

 ”堀内さん”入手されたのですね!お力になれずすみません。我が家のはまだ行方不明です(笑)。

 私も11日の土曜日の5時20分に世田谷文学館に参りました。絵本のコーナーはざっと流し(笑)、雑誌の構成や直筆の原稿類ばかり見ておりました。ショップは閉店していましたので何も買えなかったのが心残りですが、ちらしをたくさん頂きました(笑)。

 翌日は1時間会った自由時間で神田に行き、堀内さんのキンダーブック”ぼうしのしたには”の状態の良いものを500円で入手できました。堀内さんが引き合わせてくれたと勝手に解釈しております(笑)。

 それにしてももう一度いきたいなあ。明らかに堀内さん関係の方々と思われるスノップなご紳士・淑女の方々がいらっしゃいましたし、、。弥生美術館では児童誌のSF画の展示会をやっているそうですし、東京はいいですよね。

SHNYAさん、東京での短い空き時間に精力的に動かれて、
もうお帰りになったのですね。エネルギッシュなご姿勢、フットワークの軽さにいつも敬服しております。
昨日、実は世田谷文学館にもしや、同じぐらいの時間帯にいらっしゃっているかも、と思いまして、近くにいた男性の顔をついつい見てしまいました(笑)。ブログでお顔を拝見しておりましたので、お目にかかればわかるかもと思いまして。
お忙しいかと遠慮させていただいていましたが、いっそケータイの番号でもお聞きしておけば、もしやタイミングがあえばお話させていただけたかなあとも思いました。
夕方いらしたのですね。無事ご覧になることができて本当によかったですね。
「堀内さん」もしも見つかりましたら、とちょっと期待もしておりましたが、どうにか探してくださいとプレッシャーをおかけするのも申し訳ないですから。自力で買うことができたので、それはそれで良かったです。お気遣いいただきまして、すみません&ありがとうございました。
おいしく飲んで疲れを癒されてくださいね。ブログ楽しみにしております。いつかご一緒に呑める日が来ますように。

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