生誕100年 夢と記憶の画家 茂田井武展 

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明日一日、発送やら掃除やら何やらを終えて、
ようやく遅い夏休みになります。
以前、休んだとき、すぐさま対応できず
帰宅してメールを確認したところ、「ナシのつぶては困ります」と、お叱りの文章が。
すぐさま誠心誠意対応したつもりではありますが、青ざめたことがありました。
今回は、なんとか可能な範囲でメールは確認したいと
あれこれ用意しておりますが、出先でアクセス可能かどうかも定かでなく。どうなることやら。

咳こみが多少落ち着いてきたので、
ようやく「生誕100年 夢と記憶の画家 茂田井武展」に行ってきました。in ちひろ美術館。

茂田井の本をだーっと並べたパネルが壁にあり、
憧れの本があれもこれもズラリー。圧巻。
印刷物の写真を並べたものであっても、燦然と輝いている。私にはそう見える。
会期後、パネルごと譲ってもらえないものかと思ったぐらい。

「お父さーん!」「無理してでも来られてよかったね」「ガッシュいいね」など言い合いながら
興奮ぎみの老夫妻。
閉館5分前に「新聞を見て東北から来たのですが、5分でも結構です、なんとか見せていただけないでしょうか」と
駆けこんできたご年配の女性。
ひとりで熱心に見入っていた女性。
大勢の方がそれぞれの思いを胸に、熱心に見入っておりました。

垂涎ものの原画やら絵本やらの前で動かず(動けず)にいる人。
茂田井の作品は、心の奥底から絞り出した絵というのか、とてもパーソナルな印象を受ける。だからこそ、見る者のパーソナルと響き合うのではないか。引きつけられ、すーっと入り込んできて、心の琴線を静かに深く揺さぶられるよう。
ただただ、見入ってしまいます。私もそのひとり。
印刷物では表現しにくい色の感じ、油彩の筆のあと、
イラストに細かく細かく入れられた修正液のあと・・・。
「青が不思議な色だな。東山魁夷の青も不思議だったけれど、また違う感じだよね」と連れ。
「青がね。昼とも夜ともつかないような・・・」と私。

「こども雑誌」(のちに「子供雑誌」と改題)「こどもペン」(こどもの窓社)など
海ねこも扱い予定がある絵雑誌も。
さまざまな原画やら貴重な絵本やら・・・、
古書市場に出たらとてつもなく高値がつくに違いない、いくら出せば買えるんだろうか、と値段を考えてしまうのは、職業柄、としておいてください。

文章もまた、心の深くに響いてきます。

「自分一人が幸福になることを念ったり、
自分の家のものが幸福になることを念ったり、
自分の国が幸福になることを念ったりするような、
たとえば そんな小さな念いではなく、
全世界 全宇宙、
さらにもっともっときりのないものの
幸福をこそ念いたい」(1955年頃)

なんといっても心にしみたのは、戦前の1941年から
1956年に亡くなる5日前、10月28日まで書き続けられた日記・手帳の類。
よくぞ保管されていたものだと思います。

亡くなる2週間前に描かれた
「彩色された絵では、最後の作となった」という
「おひさまともぐらとかえる」(キンダーブック 1957年3月号)は
原画とともに、ラフ、そして、編集者からの依頼書も展示されていました。
依頼書の余白には、早速思い浮かんだのであろうアイディアが鉛筆で書き込まれていました。

手帖には「おひさまともぐらとかえる 10月18日完成」の文字。
「(10月)15日 毎日まっているが金はこない。弱ったところへ仕事が巧くゆかない。苦しい。
泉××さん(海ねこ注・名前は伏せます)。トロはないし、肉はかたいし」

「(10月)17日 一日ぜんそく。キンダー出来ず
サカナヤシケ(海ねこ注・時化のため、魚が入らなかったのか)。
貧しい。困った」

「18日 キンダー三月号
やっとかいて
五時半 大場さんに渡す。
段々疲れでる。心までまずしい」

「21日 朝ゼンソク。やがて楽になる。
政子 大泉母との会
政子 再び池袋へゆき
オレのためトロをかってきてくれる。
清川さんのカバー 見返し、扉。
また金乏し。
いかせんべい」

鉛筆の一文字一文字が迫ってきます。むう、息が苦しい。

連れがいちばん好きだったのは、食べ物についての手帖だったとか。
あとで、書かれていた文章を聞いて、思わず吹き出してしまった。
肉饅頭の肉汁、ボルシチに入っていた肉についての絵と文章。
いずれ連れがブログに書くでしょう。

1950年頃、仕事場での写真が有名ですが、
ビールと落花生をのせていたあのテーブルが展示されていました。
テーブルの上に、お嬢さんの絵など大事にしていたものが並べられ、
周囲には愛読書が積み重ねられていました。
壁に貼ってあった絵画の切り抜きはヤケていましたが、
画鋲のあともそのままに残されています。
ご遺族ほか、よくぞご丁寧に保存されていたものだと思います。
テーブル脇に積み重ねてあった蔵書たち、
しゃがみこんで背表紙を見ると、なんと、あの「五円の天使」が含まれていました。
以前、海ねこで扱ったことのある本ですが、
その後ずっとお探しの方がいらして、自分も探し続けている本でしたので・・・。
まさかここで再会するとは予測だにせず。

朝日新聞 夕刊「こども」欄のカットは
1952年11月から亡くなる寸前まで描き続けていた仕事。
1956年11月10日の同欄には
「このカットをかいてくださった日本童画会のもたいたけしさんは、
さる二日になくなられました」と紹介されたそうです。

創元社の「世界少年少女文学全集」の挿絵原画も。
13巻 フランス編 ライオンのめがね
26巻 東洋編 西遊記
44巻 日本編 東海道中膝栗毛
47巻 動物文学集 ぞうのプーパー など。

2階には「Parisの破片」「続・白い十字架」「退屈画帳」「無精画帳」など
さまざまな画帳が展示されていました。
想像以上の点数でした。子供のころの目線がそのまま残されており、
パリでの恋愛など、若き日々のヒリヒリするような心の痛みが遺されています。

「生れた者は死なねばならず、
会った者は別れねばならない。
然し、然し」(画帳「Parisの破片」より)

幼年時代の思い出・光景をとてもリアルに再現している「画帳・幼年画集」(1946年ー47年 未完)。

「一九一〇年
モノホシ台デ ハレー彗星ヲミタ
コレガ一番ハヂメノツヨイ印象デアル
彗星ノ尾ハ白々ト地平カラ地平ニ渡リ
天ヲ二ツニワケテヰタ」
母か乳母に抱かれて見た光景だが、
なんと1歳7か月のころのこと。

「見知ラヌ世界

目カクシヲシテ
ユクト
アラハレル
ココハモウ
ウチ デハ
ナイ」
「かくれんぼで布団部屋へかくれる。息をひそめる
永遠とゆう 時間の長さを認識する」

「記憶にひっかかって抜けないもの、過去の印象の鮮明なもの
ーー駄菓子屋の景、学校の出来事、水呑場風景、蝗やトンボとり、
汽車ゴッコ、町ゴッコ、幼稚園の楽隊、あちこちの縁日・・・・・・
その後いく年もいく年も経ち、私はどうやら挿絵を描いて生活していけるようになった。
挿絵の仕事が忙しくなるにつれ、余暇をみて好きな絵を描くということが段々おろそかになっていった。
それに反比例するように焼け失せた幼少年の頃の脳中の印画が益々くっきりと濃度を増してくる。・・・・・・
私は私の印画を紙上に焼きつけて一枚一枚と描き続け、納得のいくまで訂正しつみ重ね、
そしてこれができ上ったら「おとうさんの絵本」という題をつけて唯一の遺物にするつもりである」(「印象のレンズ 私の描きたい絵」(『教育美術』1952年5月号)より抜粋」

「オール読物」1949年12月号など原稿の抜粋。
「少年少女の廣場」(「子どもの廣場」改題 新世界社 1948年)
「こども雑誌」(白鳥書院)1947年7・8月号ー11月・12月号に3回連載した「星の輪」ほか。

茂田井の文章が好きなのであれこれ読みながら見ていくと
まったく時間が足りない。
できれば、もう一度、足を運びたい。

帰りがけ西荻窪を通りかかったので、
連れと、とある中華店に立ち寄る。
食通イラストレーター・オモチャさんが以前、
「横浜の中華街より旨い」といっていた店。
水餃子、酸辣湯(サンラータン)麺、五目焼きそばで2700円。
いやもう、1品1品、とんでもなく旨い。
中華料理屋といっても、レベルはそれぞれ。久々に感嘆いたしました。

「オモチャさんが教えてくれた店にハズレなし」と歓喜。
思えば、西荻窪・どんぐり舎も、渋谷のベルギービール店も、
赤坂にある雪濃湯(ソルロンタン)の店も、オモチャさんから教わった店でした。
我が家の旨いものご意見番といえば、居ぬさんミワちんと、このオモチャさん。
長らくお目にかかっておらず、ミクシーの共通の知人経由でオモチャさん日記を発見。
久々にオモチャさんのブログを探し当てて拝読。
オモチャさん、お元気そうで何よりです。

ミヤビちゃんに昨日、間違ったことを言ったのに気づく。
昨日の市場で買った中に、丸木俊の旧姓時代・赤松俊子の3冊が含まれていたので、
丸木俊と大道あやの関係は? と話題になったのです。
丸木俊のご主人・位里の妹さんが大道あやでした(敬称略)。失礼しました。

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ロドリゲスインテリーン - 茂田井武画集 1946‐1948 (2009年11月20日 11:55)

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