雨が降ってきそうです

| コメント(8) | トラックバック(0)

何日かの間にたまったメールに返信していく。
海ねこのお客様のなかには、とても良い文章をくださる方が珍しくない。
ご兄弟との思い出、ご両親の思い出を書いてくださる方。
子どもだったころ、何故その本が好きだったのか、
何十年という年月を経て、苦心して探しあてて再び手にしたときどう感じたか、書き綴ってくださる方。
授かったお子さんのために買った、その思いを書いてくださる方。
コレクションを続けてきて、なかなか入手できずにいた本を
ようやく手にした喜びを綴ってくださる方。
昔の思い出を葉書や便せんに綴ってくださるご年配の方。

無事に届いたことをさらりとお知らせくださる方もいらっしゃって、
短い一文であっても、とてもうれしく感じる。
もちろん、メールが欲しくて本をお送りしているわけではないので、
返信がなくてもいい。
メールが届かないからといって、喜んでいただけなかったとも限らないのだし、かえってご丁寧なメールをいただくとお手間をかけていただいたことに恐縮してしまうときもある。
自分のことを考えれば、筆不精で礼状などろくに出したこともないコンコンチキ野郎だし、
人には人の事情があるのだし。

ただ、最近、しばしば思い返すのが「古本蟲がゆく」に書いてあった一文。
「本はコミュニケーションで売るもの」が信条だという扶桑書房さんのページ。
お客さんの支払い伝票に書き込まれた通信文を
大事に保管していて、ときどき読み返す話が書いてあった。
「伝票に通信文が書いてなくてもいいんです」とも話していた、と。
あの扶桑さんが、である。でも、わかるなあとも思う。

ここのところ、時間がとれなかったので、受信箱に届いていた瞬間は、さらっと読んだだけだった。
ようやく通常通りの生活に戻りつつあるので、今さっき1通1通、大事に読んだ。
同業者には理想論だ、ぬるすぎる、非効率的だと笑われるだろうが、
返信は、コピー&ペイストでおざなりに返してはいけないと勝手に思っている。
本が届いたお礼文に対して、
時間がないときは同じ文章になりがちだけれども、
コピー&ペイストでなく、一通一通、キーを打って文章を返す。
なかなか難しいことだけれども、
短い返信でもいいから、できるだけ大事に返信していきたいと思う。

本に興味がない人には、無機的な物質のひとつに過ぎないだろう。が、たかが本といえど、されど本である。人が懸命になる理由があるんだものね。
子どものころ、吉祥寺のはずれでニワトリ55羽を放し飼いにして、庭は鶏糞だらけの貧乏家で育った。それでも、三畳間の棚には黒っぽい本がぎっしり詰まっていて、本がある光景は普通だった。そして、父親にときどき
「本はまたいではいけない」と叱られた。
突然、ものすごい形相で叱られるので、
何故そんなに剣幕を見せるのか、変人じゃないかとさえ思っていた。

1冊1冊の本には、作り手・売り手のさまざまな思いが詰まっている。
読む人・持つ人の手に渡ったときから、
今度は、手にした方の思い出、現在の思い、
ご家族の思い出など、目に見えないものが層を成して重なってゆく。

いろいろ立て込んでいるとき、
ちょっと手間のかかる受注・梱包だと、くぅーっと思うときもある。
なかなか時間やエネルギーをかけられないとき、
本をきれいにして送る時間がかけられなかったり、
疲れていると封筒に貼る宛先が歪んで曲がったり、
冊子小包のスタンプをこすって滲ませてしまうときもある。

天才・T書店さんに「古本屋は儲からないよ」ときっぱりはっきり断言された。
自分のやり方が良くないためだとも思うけれども、経費ばかりかかるので驚く。
実店舗がないのに、何故こんなに支払いばかり多いのだろうか。
お買い上げいただく代金は、そっくりそのまま次の仕入れへと回る。
売れにくい本をうっかり仕入れてしまったり、
うっかり高く仕入れてしまったときなど、赤字が累積していく。
別のどこかで埋められないことが続くと、いったいどうなるのか。
かつての貯金をなし崩し的に削っては補填してきたが、
当方もはや、いつまで続くのか、わからなくなってきている。
が、やれる間はなんとかやっていこう。
こんな仕事もあっていい。案外いい仕事なんじゃないですかね。

でも、古書店は自分が大事に扱っていく本と、そうではない本を価値判断して、
見切った本はさっさと片づけていかないといけない。
在庫を抱え込んで、いつかお金にかえられる時代でないと、
先輩古書店はだれもが言う。
「在庫を持たないことですね」と、倒産したとある店の人が助言してくれた。
古書展に参加するたび、自分はうまく安く値つけできず売れなくて悩むのだが、
どんどん値下げをして、どんどん処分しないといけないらしい。割り切らないとできないのだ。
うまい店はそのあたりを上手にやっている。
本に思いなんか抱いているようではダメなんだ。ダメだ、ダメダメ。でもね。
その狭間で奇跡のように、今日もまだ、なんとかやってます。
どうなるかわからない。今はまだやっている。売らないと続けていけなくなるので、
どうか1冊、買ってください。
買っていただけるようなものを用意できるよう努めていかないと。
しかも、可能な限り適正価格で、丁寧に売ると。道は険し、されど楽し、といきたいもんです。

いつの間にか雨。洗濯物がズブ濡れになってしまった。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.omaken.com/mt-cgi/mt-tb.cgi/5813

コメント(8)

我流が本流、でいいと思います。おっと人の事云ってられねえや。E書店目録は今度回覧します。

海ねこさーん
ネット上で、いつでもふらっと立ち寄れる古書店好きですっ
好きな事を時々もがきながらも、ちゃんと進化し続けている
店主の海ねこさん、憧れです。
たかが本一冊、されど本一冊ですよ。
海ねこさん流で、がんがん進んでください!

ところで、行ってきましたよ。私もガンガンはずが
いま身体中がすごい事になってます;
お寺の紅葉よりすごいですよ~腕足が;
首痛くて目薬させませーん(苦笑)
自分の程度を知る事も必要ですね。。。

TO書店さん、Dulcyさん、コメントの書き込みがしにくいみたいですんませんね。
我流が本流、で、自分の程度を知ることも必要。
おお、なーるほど(ザ・ワールド)ですねー。
今、一瞬、なるちゃんとか書き込みそうになって、さすがにみんな知らないよって書き直しちゃいました。
TO書店さん、Dulcyさんがパワフルにやっている限り、私もぐわんばっちゃうわー♪ えいほー。またおしゃべりしましょうね。

酔って書き込んだコメントに、
翌日自分で恥ずかしくなる。秋空がきれいだー。
TO書店さん、Duclyさん、ありがとうございました。Dulcyさん、名誉の筋肉痛(?)は多少やわらぎましたか?

海ねこさーん
あはは~一杯入ってましたか
コメント随分ノリがいいなぁと思ったのですが(笑)
ところでコメント書いて確認するとそのまま投稿になってしまうみたいです。
恥ずかしいので1コ消していただけるありがたいです。
筋肉痛今回は全くありませんが
からだ中、すんごいアザだらけです。痛いです;
なんせ身体の前、2重の鉄柵でしたから;
明日仕事ですよ・・・それから・・・
大好きな叔父が旅立ったので夜お別れに行ってきます。
それにしても、隠せないんですよ。すんごいアザが。。。

了解です。削除しておきます。反応するのにちょっと時間がかかるみたいですね。
筋肉痛がないというのはさすがです。しかし、アザですか。アザだらけで痛いとは。どんなライブやねん(笑)。いやあ、いつもすごい重たそうな本を抱えていてもヘッチャラな感じなのでタフな人だなあと感じていたのですが、さすがです。
叔父様。。。。。お辛いですね。言葉が見つけられません。さぞかしお辛いでしょうね。Duclyさーん!

昨年の2月頃に、あまり状態のよくない「こどものとも」とかを買い取っていただいた者です。その節は、ありがとうございました。

ブログ、時々拝見してます。「本をまたぐな!」というのは、祖母や母に私も言われました。理屈抜きで怒られました。懐かしいです。

絵本を買い取っていただいた時の話を、ブログに書きました。
よろしければ、お暇な時にでもお読み下さいね。
お体に気を付けて・・・。

その節はお世話になりまして、ありがとうございました。
ブログ興味深く拝見いたしました。不用品の処分は本当にエネルギーがいりますよね。でも、自分にとって不要でも、ほかのだれかにとって必要なものもありますね。その代表は絵本・児童書かもしれません。どの中でも、コレクター、再び手にしたい人がいらっしゃるもの。本当はイタミが多いとお聞きしたものを実物を見ないで買い取るのは古書店としてはよくないと思います。買いたい人は、イタミがない状態のよいものをお探しですので、最近はなるべく状態確認してから買うよう努めております。ですが、ひーさんのリストを拝見しまして、おそらく保存状態はさほど悪いわけではないかもと直感しました。ちょうど初期の「こどものとも」をお探しの方がいらっしゃって、ちょうどタイミングもあいました。やりとりをすることができまして、本当によかったです。
ブログ、またゆっくり拝見したいと思います。楽しみが増えました。ひーさんもお体をどうぞ大切に。

コメントする

2012年4月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

最近のコメント

アーカイブ