アンダーグラウンド・ブック・カフェ初日(長文・乱文失礼)

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岡崎武志さんとハイキング企画は、悪天候のため頓挫。
ですが、急きょ「吉祥寺 古本屋めぐり&飲み会」に変更しました。
吉祥寺の古書店&古本マーケット、それぞれ頑張っていました。

飲み会、楽しかったですねえ。弟がやっているバーにまでお付き合いいただき、
ご参加の方、本当にありがとうございました。
くつろいだ私たちの様子に、弟もおそらく本心より喜んでいたと思います。

近くの居酒屋にご案内して、あれ、まるで弟のバーに誘導したかのよう?
どこかの国の悪徳ドライバーみたいと思ったようでしたらゴメンナサイ。
あの居酒屋を提案したのは、私でなく、何度も行っている連れなんです。落ち着けない店は好きじゃないんで、私たち。ただ、山形料理は旨いけれど味が濃いめ。薄味好きのT書店さん、ごめんなさいね。言い訳がましい? Sちゃん、お酒つくって会計までやってくれて感謝です。Sさん、忙しいところ駆けつけてくださって盛り上がりました。Kさん、参加ありがとうね!

はじめ、岡崎さんと一緒に歩くというだけで緊張がちだった
一同でしたが、お酒が入ったら大丈夫。
あの話題、この話題、本当に楽しかったです。時間を忘れました。

岡崎さんが話していたなかで、とりわけ印象的だったこと。
作家、ライター、装丁家などなど、ものづくりをする人は
それぞれ、自分がつくったものがどのように受け止められたか気にかけている。
感想を知りたがっているんじゃないかと。「自分も気をつけようと思っている。「ありがとう」の言葉を忘れないようにしないと」と岡崎さん。しみじみした良い話。

そんなことも聞きましたし、6月1日、「アンダーグラウンド・ブック・カフェ 地下室の古書展」会場に行きたくても行けなかった方も大勢いらっしゃると思います。何かのご参考になれば、と、書きます。
参加者のひとりは、こんなふうに感じましたというご報告です。

「吉祥寺ごちゃまぜ古本マーケット」の値札貼りをしなければと思いつつ、
やっぱり聞いておこうと、トークショーの時間にあわせて足を運んできました。
まずは、入口で案内役として立ち働く西秋さんに挨拶。
すでにトークショーの開始時間まで僅かしかなく、2階「佐野繁次郎の装幀モダニズム展」をぱーっと拝見。黒岩さんもちょうどご来場、真剣にご覧になっていました。

サノシゲの装丁本は1冊でも存在感ありありですが、
あれだけまとまった量、一堂に会した光景は、やはり圧巻というべきか。
「1つテーマの本で会場が埋め尽くされると、否応無くオーラを発し始める。
まして今回は一人の画家・装幀家。よくもこれだけの仕事をしたなあと思うと同時に、よく集めたなあと感心します」
(「本の街だより」より)とありましたが、まさに「オーラを発し」ていましたよ。「よくもこれだけの仕事を」「よく集めたなあ」・・・・・・まったく同感。
正面のガラスケースの中に「銀座百点」の表紙と裏表紙を広げて多数展示してあり、
ガラスケースの向こう側、壁にも「銀座百点」がたくさん。奥行きを感じさせる、立体的な展示方法が面白い。

強く印象に残ったのは、装丁の画稿。
広告に文字を使うときはニセ文字みたいなものを使わず、必ず私の文字を使うこと、など走り書きの指示あり。
編集者、印刷所に渡す際の「指定」(注意書き)を読むのが好きです、私。
サノシゲの心のつぶやき、そして、生の声まで聞こえてくるかのようでした。
展示された300冊弱は、すべて?西村義孝さんが蒐集してきたものばかり。
前日に、林哲夫さん、西村さん、西秋さんらでああでもないこうでもないといいながら展示したそう。

UBC会場を一瞬のぞき、目にとまった本を7冊、購入。「トークショーへの最後のエレベーターになりまーす」という中野さんの声にはっとして、急いで7階会議室へのエレベーターに乗りこむ。おお、受付は旅猫さんにアベ母さん、久々ー、こんにちはー。
5分ほど遅刻しました。導入部を聞くことができず後悔。
会場には、見知った顔が大勢。昨夜一緒だった人の多くがいたので、内心にっこり。

林さんのお話、リュックの中にあるはずのボールペンが見当たらず、ガサガサ音をたててもまずかろうとメモをとれず。短めですみません。ほかの方もブログに書くと思いますので、おまかせします。
なお、私のメモには間違いも多々あるかと。できれば雰囲気だけ汲んでいただけたらと。
たかがブログでも、いったんネットにのせてしまうと実際の発言と相違があった場合、だれかに引用されたりすると訂正が追いつかない。ご本人にも、読んだ人にもご迷惑がかからないかどうか躊躇しつつ。裏をとらずネットにのせていいものかどうか不安に思いつつ。
本当はご本人が書いたものを読む、ご本人が話すのを直接聞くのがいちばんいいとは思うのですが。

●13時からの「モダニスト佐野繁次郎の装幀について+佐野本の集め方」
(林哲夫+西村義孝)

林さんのゆったりした話し言葉が、昨晩、耳にしていた岡崎さんの話し方、イントネーションと
似ているなあと、ヘンなことに感心しながら聞きました。

だれが見ても佐野繁次郎のものとわかる特色のある字、
赤や青など特徴的な色づかい(紺色の和服地のような柄をあわせたコラージュ)は
どういった背景から生まれたものなのか、どのような影響を受けたものなのか。
林さんは、あくまで「こじつけ」「推測の域ではあるんですが」
など断りつつ、独自の解釈でわかりやすく解説。
生家が船場の墨問屋だったこと、
浄瑠璃本からの影響、装丁本の数々など、多数の画像をスライドで見せながら説明してくださいました。とことんお調べになったことに、林さんならではの見解を加えていらした。どこまでが裏をとったもので、どこからが林さんのおっしゃるところの「こじつけ」であるか、きちんと解説。当時の大阪の写真、現在の写真を見せてくださり、タイム・トリップするような感覚を味わう。

休憩をはさんで、ようやくボールペンを探しあて、以下はメモをもとに。
とたんにだらだら長くなります、あしからず。

西村義孝氏へ30の質問ということで、
林さんとの掛け合いがナイス・コンビ。林さんの穏やかな突っ込みに笑う。
西村さんは44歳の会社員で、6月8日に誕生日を迎えるそう。
小学校のころから、野球選手の色紙、スナック菓子のカードなど、蒐集好きだったこと。
はじめはテレビ番組の影響で、辻静雄の本を蒐集。雑誌を見て、辻静雄が吉田健一に関心を持っていることを知り、吉田健一本のコレクターになったのだとか。さらに、sumusに掲載されていた林さんの記事を見て「佐野繁次郎? 辻静雄の本だったら自分も持っている」と気付いたのが、佐野繁次郎コレクションの始まり? テレビや雑誌がきっかけだったり、始まりは私たちと案外一緒なんだ、と親しみを覚える。
マンションの3畳ぐらいの納戸みたいな「本部屋」に
入るだけ本を入れてある。「2000冊ぐらいかな?」

基本は「リストを用意する」(某近代文学館の場合「装丁」の項目で装丁家を検索可能。古書展に向かう電車の中でリストを眺めて、探したい本を頭にインプットする)
「ネットで検索する」(新しく入力されたもののみ検索できるか、新しく更新されたものが上に来るのかどうか、「スーパー源氏」「日本の古本屋」など、それぞれ異なる)
「歩きまわる」「土曜は古書展へ通う」(三十代のころは高円寺、神保町、五反田とハシゴしていたそう。食事はコンビニで買ったものを駅のホームで電車の待ち時間に食べる)
「書影を覚える」(吉田健一の本を入れてある書棚を、歯磨きをしながら見ていたら
自然と背表紙を覚えて、古書展などでも「あ、これ!」と探せるようになったとか)
7-8割まではひとりで集めてから、自分の目で追えなくなったとき初めて懇意の古書店に「集めてます」と言う。
「集めてます」と言うことによるデメリットもあれば、メリットも。落丁がないか1冊1冊、中ページをきちんと確認している古書店から「中に写真が入っています」と連絡をもらえたり、吉田健一の場合だと「市場に色紙が出ましたよ。ほかの店にいっちゃった」など情報をもらえるなど。

そして、
「持っていない本、リストにのっていなかった本を探せたときがいちばんうれしい」とのこと。

どうしても欲しいものが出てきてしまったときは、
かつて蒐集していた別の何かを売ってお金を作る。付加価値をつけるため行動するなど、具体的な話もあり、まるで古書店どうしの会話を聞いているかのよう(笑)。

「月曜から金曜、飲み会に行かないのが資金づくりのコツ」とのことでした。
しかし、管理職になったことだし、残業代がつかないうえ、
歓送迎会など避けるわけにもいかないし、とか。
家族の理解を得るための秘訣、ふたりのお子さんたちへの影響など、面白い話がたくさん。
林さんとご一緒に、ぜひまた何かおつくりになっていただきたい。さらなる展示含め、次なる展開が楽しみです。

●16時からの「編集者 国木田独歩と謎の女写真師」
(黒岩比佐子)

村井玄斎のことを調べるとき、文学館に通って
ほとんど誰の手にもとられぬまま長年、箱に詰めてあった300箱分の書簡すべてを読んで準備。
トークショーの間、笑いながら「かなり大変でした」「結構大変だったんですけど」を連発していた黒岩さん。
「調べても調べても探しあてられないときのほうがむしろ多いんです」「時間をかけてもダメなときのほうが多いんですね」と穏やかに、しかし何度も話していました。
黒岩さんの取材術、とでも言いたいような、興味深い内容でした。

昨年末「編集者・国木田独歩」(角川選書)を上梓された黒岩さんですが、
調べていく過程で何があったか、ウラ話的なエピソードをたくさん聞くことができました。

詳しくは黒岩さんの著書を読んでいただくとして、
本書で明らかになった「女写真師」とは誰なのか、本名はなんというのか。
国木田独歩夫人の書いた小説から「女写真師・梅ちゃんって誰だろう」と思ったのがきっかけ。
国会図書館に通ってマイクロフイルムを見ながら、愛媛の新聞に写真館の広告が掲載されていないか探していった。
マイクロフィルムを見ていると吐き気がして、実際トイレに駆け込んで吐いたこともあった。
あまりにも効率が悪く、その方法はじき諦めざるを得なかった。

あてのないまま、必死に考えて、あれやこれやの手で探し続けて、
しかし、なんの反応がないまま何か月も過ぎていくばかり。
ご友人の助けによって、スクラップブックを目にしたところから本名を知ることになった。
その日にちまで鮮明に覚えているそうです。

スクラップブックで見かけた記事から、黒岩さんは、女性のための写真学校が実に早い時期からあったことを知る。明治ですよ、明治?年。
それも、写真専門学校の中では、ふたつめにできた学校なのだという。
男女席を同じうせず、の時代ですが、女性向きに写真の技術を教える学校があったとは驚きだ。
しかしながら、実際のところ、女性の入学希望者は二人しか現れず、
そのうちの一人は、記事に名前さえ出ていなかった。
もう一人は成績優秀で、国木田独歩の独歩社?に入ったという記録があった。
記事の主眼は別件だったため、フルネームが実にさりげなく、さらりと書いてあったのだという。

たまたま苗字が珍しかったため、とある県の電話帳を調べたら1軒だけ掲載されていた。住所も書いてあった。手紙を書くか、電話をかけるか。
電話をかけたとして、一体どう話すのか。知らない人からいきなり電話がかかってきて「おばあ様が女写真師ではなかったでしょうか」など唐突に聞かれたら驚かれるだけ。では、どのように考えて、どのように行動していったのか。
臨場感あふれる説明に、思わず一緒に探しあてていくかのような気分になる。
構成を工夫しながら、わかりやすく丁寧に解説していくあたり、黒岩さんの文章を読んでいるときとよく似た印象。

ついにご遺族と電話で話をすることができ、出張して、ご遺族と話すことができた。
女写真師はその後、結婚して一般家庭に入り、北京?出張などもして、
男児ふたりの子宝に恵まれた。ただ、ふたりはすでにこの世の人ではなく、
実際に会うことができたのは、"女写真師"のお孫さん。
ついに「おばあさんは実はカメラマンだったと教えてくれた叔父がいた」という証言を得る。

"女写真師"がいた証拠として、グラフ誌のイラストをスライドで示され、ぐっと説得力が増す。
また、ご遺族の提供による女写真師の写真が、ひとりの女性が確かに生きていたのだと訴えてくる。ぐっとこみあげるものがあった。

女性報道写真家の先駆けである、一女性への共感。時代的背景への考察。
諦めてしまわずに、とことん考え抜いて、あの手この手で探し続けていく根性。いやいや、あっぱれでありますよ。黒岩さん、素敵すぎます。

ただし、この写真家について調べたり、お孫さんに会いに行ったり時間をかけたにも関わらず、本では3ページしか書けず。珍しい苗字であったがため、どうにかこうにか探し当てることができたのだが、逆に特定されやすいため、ご遺族のプライバシーに配慮してのことだという。

「だれも知らないことを調べて調べてわかる喜びは、ほかのものに代え難い。お金には代えられない。だからこそ、ファーストフードでアルバイトしたほうがお金もずっとたくさんもらえると思うのですが、私には今のこの方法しか考えられないんですね。
これからも古書会館に通い続けると思います。アンダーグラウンド・ブック・カフェということですが、私にはアンダーグラウンドではなく天国です」とシメの言葉を。
1時間半の予定が、黒岩さんはまだまだ話したいことがたくさんあったようですし、会場も質問したいことが尽きず、2時間以上に及んだ。
黒岩さん、関係者の皆様、ありがとうございました。

トークショーに参加したかったので、あまり話ができず、
ごめんなさいね、海ねこ千葉支部(?)・Fさん。
1センチ浮いている話などもっと話をしたかった。いろいろ聞きたかった。
それでも、お会いすることができまして本当にうれしかったです。
ここまで書いたところでメール拝受しました。Fさん、ありがとうございます。この場を借りてお礼をば。

さて、アンダーグラウンド・ブック・カフェはまだまだ続きます。3日(火曜)まで。
海ねこは、吉祥寺ごちゃまぜ古本マーケットの値札貼りがまだ。
水曜搬入のため、もう行きません。残念無念。月曜は発送が多いことですし、仕事します。お待たせしている方のもとへ本を送り出しますよ。水曜夕方から夜、降るな~、晴れろ~。
(UBCも青空の初日で大盛況でしたが、搬入は大変だったそうです。雨を避けて早めに搬入したのだとRさんの話)

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昨日はお世話様でした。
私は薄味好きでしたっけ?結構濃いものが好きです。
神田でのお昼も好みで選ぶと、つい高カロリー食になってしまうので
最近は意識するようにしている次第です(しかし誘惑に弱いのですよ)

その対策の為も兼ねた山登りが実現することを楽しみにしております。

あ、ユカイでカッコいいT書店さん、
終電、大丈夫でしたか? 楽しめましたか?
体にいいもの食べて、また頑張っていきましょうねえ。
で、仕事をして、また飲みましょう&山行きたいねえ。月曜、何食べるのかなあ。当分、中華バイキングはなしでしょう、わはは、内輪ネタすぎ。

海ねこさま、昨日はありがとうございました! また、長文でご紹介いただき、恐縮です。ブログに(言い訳を)書きましたが、昨日は途中でどこまで話したかがわからなくなってしまい、混乱してしまいました。情けないです。時間もかなりオーバーしてしまいましたし、反省材料がたくさんの講演会でした。でも、UBCで話をする機会をいただけて、本好きな方々とお会いできて、本当に幸せでした。これからもよろしくお願いします。

黒岩さん、どうもありがとうございました。
ブログ拝見いたしました。スライドの順序が・・・とは、本当に大変でしたね。もしも私がその立場でしたらパニクって悲鳴です。少々驚かれているようではありましたが、まさかそれほど大変な事態だったとは。傍目には落ち着いていらっしゃるように見えましたよ。終始、笑顔でゆったりお話しになるので肩肘はらずに聞くことができました。
直接お話を聞いたほうが胸にしみてくることもあるのですね。女性カメラマンの写真を見たとき、なぜだか目の前でお話しなさっている黒岩さんの声や生きざまと重なるものを感じましてああ、実在なさった「生身の人」なんだと改めて。ひとりひとりの人生の重みが伝わってくるようで、胸が熱くなりました。努力した末、女性報道写真家への道を歩み始めたにもかかわらず、結局のところ家庭人としての幸福を選んだのはなぜか、今もずっと気になっています。黒岩さんの手法とは違うかもしれませんが、”女写真士”の生きざまに絞り込んで脚色したらドラマチックな小説になりそうですね。
人前でお話しなさる機会が一層増えて、黒岩さん、きっと語り部としてもご活躍なさっていくことと存じます。気分転換と休養を大事に、末永くご活躍を。応援しております。難しいとは存じますが、思い切って週一度ぐらい休みをとってみてはいかがでしょうか(←海ねこのお客様からのアドバイス)。

御礼が遅くなりました、実況中継な記述ありがとうございます。昨日、展示が終わり撤収し、本日よりサラリーマンへ戻りました。とても貴重な体験でした、今後とも宜しくお願いします。週末にダンボール10箱が戻ります、楽しい本棚収納・整理が待っています。

yoshikenさん、こんにちは。書き込みいただき、ありがとうございます。展示もお話も、どちらも大好評でしたね。展示、もっとゆっくり見たかったです。搬入搬出ともに、お疲れさまでした。「楽しい本棚収納・整理」ですか。どんな週末になるのでしょうか。今回のことで、ご家族の方のご理解をより得られますといいですね~(祈)。
蒐集家からサラリーマンへ。バリバリ働いて、今後ともご蒐集にお励みください。またぜひ、新たなる展示&出版物をお願いします。

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