コクテイルの週末

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24日(土曜)は昼すぎ、買取のお客様が
横浜市から本を届けにきてくださる。
当店で人気の某雑誌を創刊号からどっさりと。

「うちは置き場所がなくて前から処分しようと思っていたので」
とおっしゃるが、
大事に集めてこられた雑誌を手離すお気持ちは幾ばくかと思う。
「きっとお喜びになる方がいらっしゃると思います」
とお伝えしたところ、うれしそうな笑顔になられていた。
4歳のお嬢さんと一緒に、長距離ドライブ、
まことにありがとうございました。
ナイス・ガイでいらっしゃいました。

前日23日(金曜)。
「文藝春秋」に掲載されていた
「ひとり日和」(青山七恵)を電車で読んだところ、
思いがけず引き込まれる。
芥川賞受賞作とあって逆に敬遠しそうになったが、
登場人物に感情移入し、物語の世界に取り込まれる。
山田詠美さんは選評で「私には、いささか退屈」
とお書きになっていた。ごもっともな感想かとも思うが、
受け取り方は人それぞれ。私は面白く読み進めることができた。
読みやすく、とても楽に書いているように見えるが、
これだけのものを書く筆力はかなりのものだろう。

市場(明治古典会)で
「本の散歩展」目録に掲載できそうな品を物色。
市場でお目にかかった股旅堂さん、徳尾書店さんをお誘いしたところ、
コクテイルで開催中の絵本酒場に来てくださるという。
「じゃあ、7時ごろに」と約束し、石田書房に立ち寄って
急いで帰宅。
梱包・発送作業をこなし、
絵本酒場に追加する本を手持ちで運ぼうとしたら、
あまりの重さに腰痛が怖くなり、車で高円寺・コクテイルへ。
書庫で注文本を探して持ち帰り、
車を自宅に置きに戻ってから、再びコクテイル。

股旅堂、徳尾書店、山京堂書店さんと囲炉裏の席。
「若い人と一緒で、緊張してるんでしょ」
と店主に冷やかされつつ、杯を重ねる。
股旅堂、徳尾書店さんとは、
将来的に何か一緒にできたらいいねと
最近しばしば話している。
年齢的には若くても、古書店歴・新刊書店歴など
キャリアは私よりずっとずっと上のおふたり。
真面目なのだが、どこか余裕のある真面目さ。
古書店のあり方やら何やら、
若きホープらと話すのはとても愉しく、
途中から加わった古書店主さん、友人・知人とも話して、
見る見る夜が更けゆく。
近くの寿司店でさらに時間をつぶして、始発で帰宅したのだった。

24日(土曜)は、冒頭に書いた買取のあと、
3時、コクテイル。絵本酒場の店番。
朦朧とした頭ではあるが、
店を開き、看板とベンチを表に出して、チラシを並べる。
店内を軽く掃除して、酒屋から届いていたビールを冷蔵庫に入れる。
あら、囲炉裏、片付けたのね、春だなあと思う。
やがて、ふわりふわりとやってきた店主に
「(きのうの今日で)よくちゃんと来られたねえ」
と、また冷やかされる。
昨日、車で搬入した補充分に値札をつける。
あづま通りは人通りが多いので、
店内で何が行われているかご案内もかねて、
店頭にバーゲン本を置く。
扉をあけていたら、店内に入ってきてくださる方が何人もいらして、
お買い上げもいただいた。
そのうちのおひとりは、お近くにお住まいの方で
「このお店は前から気にはなっていたけれど、
初めてだと入りにくかった」とのことだった。

ご来店されたb.k.ノムラ夫妻とお話したいなと思い、
西部古書会館で開催中の「好書会」を
ちらりとのぞきにいこうとしていたら、
「どうも~」と人なつこい笑顔で立っていたのが
沼辺信一さん。
来週3月3日(土曜)に音羽館店主・広瀬洋一さんと
対談が行われる。
下見をかねて、お立ち寄りくださったのだ。

「この店はあれだねえ、
ちょっと過ごしてみると、店のランプにでも
なったかのように、落ち着くねえ」
と、コクテイルがお気に召したご様子。
「店のランプ」というたとえが、少年時代から
お父様の蔵書であった児童書を貪り読んできた人らしい。

相変わらずの辛口批評で海ねこを叱咤激励してくださる。
辛口の中にも愛情がにじみ出るあたり、ご人徳でしょうか。
日々、さまざまな蒐集や研究に励み、知的好奇心、全開。
西荻ブックマークのトークショーのとき
「生きてきた人は、この世のどこかに必ず痕跡を残しているんです。
何もないだろうと思っても、
探せば必ずや何かしら残っているんです」
という言葉が印象的だった。
私がブログにそう書いたことについて、昨日も触れていただいた。
その時代その時代に生きる
「総体」としてではなく、「個々」の人物への興味。
点と点が結びついて、独自の視点から関係性・
時代性を見出していくのが面白くてたまらないご様子。
沼辺さんの日々に「退屈」という文字はない。

お立ち寄りくださった居ぬさんミワちんに
「絵本酒場」の看板を書いてもらう。
手描き看板を店外の本の木箱に貼り、
店内の棚にも置くと、おかげさまで、圧倒的に雰囲気がよくなった。

絵本酒場がどこまで店に貢献しているのかわからないが、
給料日あとの週末ということもあってか、店はにぎわっていた。
沼辺さんも
「古本酒場というのは、ほかにもあるの?」
「絵本の表紙を眺めながら飲むというのも
なかなかいいものだね」と笑顔。
コクテイルは月がわりで「革命酒場」「陰謀酒場」「歴史酒場」と
変化していく計画らしいと話すと、
「絵本のあとは革命?
絵本好きに続いて革命家、陰謀家が来るわけだ」
と面白がっていらっしゃった。
棚の表情が変わると、同じ店でも雰囲気が変わる。
忙しそうに立ち働く店主と、ほろ酔い気分でくつろぐお客さまたち。
あたたかい人いきれ。裸電球のあかりが目にしみた。

話せば話すほど湧き出る知の宝庫・沼辺さん。
数時間があっという間に経過した。
沼辺さんがお帰りになってから、さらに居残り。
酔うたび海ねこを酷評する(愛の酷評? と
勝手に解釈することにしているのだが)Nくんから
少年時代の読書遍歴を聞く。
初めて聞いたのだが、親御さんが絵本の読み聞かせ活動にご熱心で、
他人に読み聞かせする前の練習台になっていたのだという。
幼少時から絵本・児童文学に親しみ、
ひじょうに精通していることを初めて知った。
「やっぱり、コロボックルのシリーズがいいですよね」という。
女の子に1冊プレゼントしたのに、
無反応でがっかりしたという話も。
ふだん社会の荒波にもまれながら
自分は自分とでもいわんばかりに突っ張っているが、
少年の日を思う瞳に濁りはない。
そんな彼、見たことがなかった。

コクテイルの魔力。飲み食いがどんどん進み、
コクテイル店主に「海ねこさん、売り上げより
飲み代のほうが上回るんじゃない?」と笑われる。
「だけど、有形無形のものをたくさんお客様から
いただいているんでしょ、今の時期は。
商売ってそういうものでしょ」と店主。
国立店から、高円寺へ、さらにあづま通りへと移転して
10年、古本酒場を続けてきた人ならではの言葉。

本を買ってくださった方々、
コクテイルに足を運んでくださった方々、
ありがとうございました。

新着本の更新が進んでいないにもかかわらず、
メールで、FAXで、と、多数のご注文をいただいております。
ありがとうございます。
ご注文・発送、買取のご依頼への対応など、お待たせしております。
本が届いたというお礼のメールをご丁寧にありがとうございます。
いただきましたメールは1通1通、
きちんと拝見させていただいております。

「いつも忙しくて大変そう」「体のことが心配です」と、
さまざまな方からご心配のお言葉をいただき、ありがとうございます。
ただ、要領がよくない上、酒場で人々と話すのが愉しくて、
それでかえって忙しくなっている始末です。
勝手に自分で自分を忙しくさせているわけで、
お待たせしている方々には申し訳ありません。
さて。
今から梱包・発送、そのあと、注文本を揃えるため倉庫に行きます。
その後、先日取材していただいたゲラを見て…。
順に進めますので、ごゆるりとお待ちいただけましたら幸いです。

なお、絵本酒場「コクテイル」は3月14日まで。
(通常19時~。期間内の土曜とイベントがある日曜は15時~)
高円寺・コクテイルでのイベントは続きます。
●3月3日(土曜)17時~
沼辺信一さん 音羽館店主・広瀬洋一さん対談
「収集家 VS 古本屋──
本とレコードと懲りない面々」                」
●3月4日(日曜)17時~
渡辺鉄太さん 小宮由さん対談
「絵本作家と編集者 幸福な関係」

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