花森安治と「暮しの手帖」展

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仕事の合間、花森安治と「暮しの手帖」展へ(世田谷文学館)。

入ってすぐ表紙の原画が掲げられていた。
第2世紀の51号ーー見た瞬間に絵が発するオーラにひきつけられ、
しばし動けなくなった。
細部まで、絵が生きている。呼吸している。
編集者・執筆者・デザイナーとしての手腕はむろんのこと、
イラストも天才的だったのだな。
うまいとは思っていたが、大判の原画を見ると、どれほどすごいものかよくわかる。
しかも、号によって、まったく違う画風を自在に使い分けている。
私が編集者だったら、きっと頼みにいく。
「先生、ぜひ絵本を描いてください」と。

編集部員の原稿に直しを入れたものも興味深く見る。
「少しの洗剤しかいらず、経済的な筈だったのですが」という文章に、
花森が直しを入れたものは次のとおり。
「少しの洗剤しかいらないから、その点では経済的にはちがいないのですが」。
編集部員はおそらく胃が痛くなるような思いをしただろう。
そんな空気まで伝わってくるようだった。

1969年2月、花森は取材先の京都で心筋梗塞により倒れた。
その病床で描いた15枚のスケッチにはこうあった。
「夜はのろのろとじれったいくらいゆっくりとしか過ぎていかない。
目をさますたびに、もうずいぶん時間がたったろうとたのしみに時間をみるのだが、
せいぜい三十分か一時間たらずしかたっていない」…。
そして、目覚まし時計のイラスト。
目覚まし時計は夜光塗料がうまく光らないので気に入らず、
自宅で愛用していたものを持ってきてもらったらしい。
深夜、スケッチブックにどんな気持ちでスケッチしていたのだろうかと考える。

これから行く方は、2階の常設展
(11月8日リニューアルオープン)もお見逃しなく。
徳富蘆花、萩原朔太郎、林芙美子、福永武彦、三島由紀夫、植草甚一、
寺山修司、中井英夫、宇野千代、大江健三郎、仁木悦子、荻原葉子…
作家の生原稿や書簡、持ち物など、体温が感じられるものがたくさん並んでいる。
森茉莉が「ドッキリチャンネル」執筆のため
新聞の番組欄にたくさん丸をつけたもの。
北杜夫「楡家の人びと」ノートの表紙には
「重要。おとどけ下さった方には謝礼を致します」という書き込み…。
私も持ち物にはすべてそう書いておかないといけないなあ(とくに飲んだとき)。

「竹久夢二と少年山荘」のビデオも見てよかった。
ビデオはすべて見たくなったほど。
帰りがけに「暮しの手帖」展の図録と夢二展の図録を購入。
買ってよかったと思ったのは、後者。

25日は市民向け誕生月の健康診断。新着本を更新して、友人宅へ。

出かける間際、楽天フリマでご注文の方から「本が届きません」とご連絡をいただく。
まもなく3周年になるが、本が届かないと連絡をいただいたのは2度め。
郵便事故かと、うなだれる。
古書は基本的に1点限りで、かわりのものがない。
値段の安い冊子小包を活用させてもらっているが、
それが信用できないとなったらどうすればいいのか。
オンライン古本屋の限界(?)を感じて暗澹たる思い。

が、外出する前に我が家のポストを見たところ、なんと、その本が舞い戻ってきていた。
冊子小包は「小包」なので手渡しが原則。
配達先の人が不在だと「郵便物お預かりのお知らせ」が投函され、
7日間、郵便局が小包を預かることになっている。
7日たっても配達先から連絡がないままだと再配達され、
やはり不在の場合、発送元に戻されてしまう仕組みらしい。

今度から発送メールにはそういった注意も入れないといけない。
電車に乗ると「…にご注意ください」「…しないでください」といった
アナウンスをうるさく感じる。
だけど、いろいろワケあって言っておかないといかんから言うのだろうなあ。
結局あれやこれや書かざるをえないのだよなあ…。

ともあれ、本がなくなったわけではないので安堵。
お客様にもすぐ連絡したが、ほっとされたことだろう。
何よりそれがよかったと思う。

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