点と点、線と線

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オンライン古書店を続けて3年8か月。
日々の地道な作業を続けながら、ふと気づいたことがある。
お客様のおかげで、点と点がつながって線になり、
線と線がつながっていき、
やがてひょっとしたら面になるかも? と思えるような面白みを感じつつある。

お母様の遺品をご処分されたいという中部地方のお客様がいらっしゃる。
知的好奇心旺盛だったお母様のお人柄がしのばれるようなラインナップだ。
当店としては欲しい雑誌が含まれていたので、
ありがたくも懸命に買取の見積もりを提示させていただいた。
数日たってもお返事がなかったので、見積もり提示額が安すぎたのだろうか、
もうダメかなと思っていたところ、
今さっき、ご承諾いただけそうなお返事をいただいた。

と同時に、思い浮かんだのは、九州のとあるお客様のことだ。

最近、この雑誌周辺に何度か続けてご注文いただいている。
初めてご注文いただいた品は、
この雑誌にしては類い稀なほど美品だったのたが、
あいにくキリトリありだった。
もちろん隠すことなくHPに明記し、
事前にもご確認いただいたうえでお買い上げいただいたのだが、
数日後、届いたのは、嘆きのメールだった。
なんとキリトリ部分は、
お客様がこよなく愛されているタレントさんの写真入りページだったのだ。
何のページがないのか、きちんと表示すべきではないか
というクレームだったのだが、
雑誌の価値を評価していらっしゃり、
悲しいけれども返品の依頼ではないとお書きになっていた。
私がお客様の立場だったらどんなにか無念だっただろうと、心が痛んだ。
自分に出来るのは、心が痛んだ思いをメールすることだった。
寛大にも、同じ方からその後何度か追加ご注文をいただいている。
毎回、お望みのページがきちんとあるかどうか十二分に確認し、
できるだけ丁寧にお伝えするようになった。

クレームのメールをいただいたおかげで、
お客様が何を望んでいらっしゃるのかよくわかり、
他人(点)と他人(点)がつながることができたのだった。

今度は、中部地方のお客様からの買取が、
九州のお客様のお役に立つかもしれない。
本を介してのやりとりなのだが、
人と人のやりとりを重ねながら点と点がつながっていく思いがして、面白みを感じる。
偶発的なことも積み重なってみると意味合いが生じることがあるだろう。
まったく手探りながら、見えない何かを紡いでいくような心持ち…。
人から見たらお笑い草かもしれないけれども、
♪I’m a dreamer…だねえ。

ところで、ちょっと立て込んでいるため、
明日の中央市会は行くことが難しいかもしれない。
本当は行きたいのだ。
映画に使う小道具として、
とある時代の児童文学全集の探しものを依頼されているし、
ご依頼の方もお待ちだろうと思う。
何かないか探しにいきたい…。

値段にしたら、たかだか2千、3千円程度のものだろうから、
なぜ懸命に探そうとするのか、他店の人から見たら不思議だろうと思う。
映画の小道具だからこそ頑張って探したいというのとは違う。
ご依頼の方からいろいろお聞きするうちに、
この時代、日本の出版界でどのような児童文学全集がつくられていたのか、
私自身がひじょうに興味を持つようになりつつあるのだ。
市場に行くと“あれ、こんな本がつくられていたのか”
とさまざまな発見がある。
イタミがある本であっても、きちんとつくられた本を手にしていると、
当時の編集者たちの気持ちまで伝わってくるように感じる。

最初、点だったものが、人とやりとりをしていくうちに熟成していき、
線となりつつありそうな手ごたえ。
目に見えないけれども、あるんだよー、だ。
こんな感覚を得ることが興味深く、また市場に通うのかもしれない。

人は、ほかのだれかのためにどこまで頑張れるものだろうか。
だれかのためになれる喜び・張り合いというのは確かにあるのだろう。
だれかから必要とされてこそ、やっていてよかった、
生きている意味があったと希望を覚える瞬間があると思う。
ただ、長年続けていくうちにしんどいときもあるだろうから…。
けっしてだれかのためではない、
自分が面白いからやっているのだと思えるからこそ、
貧乏も面倒も煩うことなく(ときに煩ってはいるが)
古本屋を面白がって続けていられるのだろうと思う。

ちょっと優等生っぽいことを書いちゃいましたが、
実は、目の前の仕事が進まない気分転換なのでした。
天気がいいと、ただそれだけで気分がいい。

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