千野栄一先生を偲ぶ会

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知人がいないため行くのが億劫だった会合。
が、社交辞令でなく、行ってよかったと思う。

「千野栄一先生を偲ぶ会」が
新宿・ライオンで開催された。

生前の先生にお目にかかることは果たせなかったため、
自分は「千野さん」と書かせていただく。
「君には教えていないので
先生と呼ばなくていいよ」と千野さんから言われた人の話も出ていた。
千野さんは、スラブ語の研究者として、大学名誉教授、
またチェコ贔屓の作家・エッセイスト・翻訳家として有名だが、
ご自分の研究ばかりでなく、
若手に何かを伝えることに全霊を向けていたようだ。
朝日カルチャーセンターで、語学の教室をずっと続けていらして、
教室後、新宿・ライオンでの飲み会が毎回、大盛況。
机上よりも、酒席こそ学びの場とばかり
杯を酌み交わし、語り合っていたのだという。
ゆかりの地、ライオンに40人ほどが集ったのだ。

顔ぶれは、東京外国語大学はじめ各大学教授、
カルチャーセンターの先生ほか
「教授」「先生」と呼ばれる人が多い。
絵本好きならだれもが知っているせなけいこさん、
内田莉莎子さんのご子息などもいらした。

驚いたことに、私まで受付で「先生ですか?」
「先生、御代は結構です」と言われかけたのだった。
なんのことやら。
あとでわかったのは、
千野さんの二人めの奥様であり、翻訳家でもある方に
似た雰囲気だったため、奥様と勘違いされたらしい。

司会進行役も大学教授である。
私の隣の席も大学教授。
なぜ自分がここにいるのかわからない。
そうは言っても来てしまったからには飲んで飲んで飲む。
ライオンのビールがまた旨いんですよ。

テーブルに同席した方が皆、優しかった。
まるで沖縄の居酒屋に行ったかのような優しいまなざしだ。
千野先生が今日の会に皆を集めてくれたのだと
だれもが意識していたのに違いない。

古本屋だと名乗ると、
一様に関心を示してくださる一方、
チェコ語の絵本を紹介しているサイトは
よくRとLを間違えて掲載しているのでどうかと思うなど
手厳しいことを言われ、ドキリとする。

スライドで千野さんの若き日の様子が次々に映し出される。
会場にいた人たちの若き日々の姿が
千野さんに寄り添って、ともに笑っている。

次々に、千野先生の思い出を語ろうと
自発的にスピーチする人が絶えない。
会場中がそのスピーチに熱心に耳を傾ける。
あれほどスピーチをきちんと聞く会は初めてだ。
千野さんの思い出を語る人とともに、
会場の皆も飲みながら、うなずいたり、笑ったり、泣いたり。
時間と思いを共有した。
生前、お目にかかったことがない私でさえ、
千野さんのお人柄を感じ、温かく包み込まれるかのようだ。

今、第一線でご活躍なさっている方が
名もなきころ焼き鳥屋に連れていってもらって
「なんの仕事でもできるんだから」と励まされた話。
お亡くなりになる直前まで枕元に原書が積まれていた話。
闘病生活の途中から耳が悪くなり、声が大きいため、
「階下で話そう」といわれて一緒に行ったとたん、
いつもの毒舌が始まり、びっくりした話。
「語学とは記述すること」と千野さんがよく口にしたという話。

せなさんは「チェコに行ってトゥルンカのアニメや絵本に目覚め、
せめてタイトルや小見出しが読みたいと思ったんです。
朝日カルチャーセンターで20年ほど先生の生徒でした。
チェコ語はともかく、(授業後のライオンで)ビールのほうが覚えました。
先生には違う世界を見せていただきました」と話していらした。

とある大学教授は、千野さんの思いを
今も生徒に教えていますと語っていた。

コリアンスクールに通うことになり、
それでもなじめず、チェコはじめ東欧に憧れて
心の支えとしていたという女性は
先生が「分け隔てなく接してくださって。
生前、お礼をいえなかったのが心残りです」と涙していた。

先生に生前お会いしたことがない人として紹介されていたのは、
プラハで村上春樹がカフカ賞を受賞したとき通訳だった男性。

千野さんと皆さんで歌ったのだろう。
チェコ語の曲を皆で合唱する。
千野さんが同じ会場のどこかで歌っているような気がした。

スピーチする人が一様に、
入院先の千野さんから手紙をもらって励まされたと口にしていた。
そんな生き方ができる人がいたとは、頭を垂れる思いである。
死して5年、千野さんは皆の心に生きていた。

今回、連絡が行き届かない人も多々あり、
次回はできれば参加希望者がもっと来やすいよう
考えたいそうだ。
千野さんの望みどおりだろう。

なってるハウスのふちがみとふなと、行きたかったけれども
残念でした。こんなところで失礼しますが、
Nさん、伝言、確かに聞きました。ありがとうございました。

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